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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第30章 第十二話 【花見月の別れ】 其の壱

本来なら、真っ先に訪れるのは、お彩が生まれ育った、文字どおり生まれ故郷の甚平店であるはずだが、現在、甚平店にはお彩の帰るべき家は既にない。お彩の父伊八は江戸でも評判の腕の良い飾り職人であった。その繊細な職人技から生み出された数々の細工品は名人芸の域に達していると評判で、大店の内儀や高禄の旗本の奥方まであまたの得意客を持っていた。しかし、伊八は一昨年の秋に不慮の事故で亡くなっている。
その五年前には夜泣き蕎麦屋をしていた母お絹が流行風邪でみまかり、一人っ子のお彩は今や天涯孤独の身だ。父伊八が亡くなった時、甚平店のそれまで暮していた家は引き払った。お彩は、母が亡くなった一年後には甚平店を出て近くの長屋で一人暮らしを始め、そこからほど近い一膳飯屋「花がすみ」の仲居として通いで奉公していた。
その五年前には夜泣き蕎麦屋をしていた母お絹が流行風邪でみまかり、一人っ子のお彩は今や天涯孤独の身だ。父伊八が亡くなった時、甚平店のそれまで暮していた家は引き払った。お彩は、母が亡くなった一年後には甚平店を出て近くの長屋で一人暮らしを始め、そこからほど近い一膳飯屋「花がすみ」の仲居として通いで奉公していた。

