パソコンから！ケータイから！スマホから！無料でどこでも気軽に楽しめる官能小説サイト

第30章 第十二話　【花見月の別れ】　其の壱

　が、「凄腕」と年配の同業者からも一目置かれるほどの才覚を発揮し、京屋を先代のとき以上に大きくしたと云われる。しかし、初恋の女を諦めてまで夫婦となったお市は良人に振り向いて貰えぬ淋しさから平手代の清五郎と通じ、市兵衛は裏切られた憤りのあまり、清五郎を首にし、絶望したお市は自ら首をくくって死んだ。
　そのことが市兵衛をして、あのような深い孤独に陥らせたのかとも考えられたが、市兵衛の抱える底なしの闇はもっと深い彼の根源からもたらされるものに他ならないことに漸く気づいた。
　最早、我が身に市兵衛を救うことはできない。そう悟った時、お彩は自分から良人の傍を去るしかなかった。