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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第30章 第十二話 【花見月の別れ】 其の壱

お彩は、余計なことは一切差し挟まず、ただ事実だけを余すことなく伝えた。
伊勢次と二人で江戸近在の村に移り住み、夫婦としてひっそりと暮らしていたこと。慎ましく穏やかに暮らしていた日々の中、初秋のある朝、突如として、伊勢次の姿が見えなくなり、慌てて探し回った挙げ句、近くの池で変わり果てた姿となって見つかったこと。
その後のお役人の検(あらた)めでは、遺書などもないことから、不慮の事故死、つまり、誤って池に落ち溺死したのだと申し渡されたこと―。
「嘘だろう、あの子が伊勢次が死んだなんて、何かの悪い冗談に決まってる」
おきわは呟くと、お彩をひたと見据えてきた。その艶やかさを失った頬には幾筋もの涙の跡がある。お彩はハッと胸を衝かれた。
伊勢次と二人で江戸近在の村に移り住み、夫婦としてひっそりと暮らしていたこと。慎ましく穏やかに暮らしていた日々の中、初秋のある朝、突如として、伊勢次の姿が見えなくなり、慌てて探し回った挙げ句、近くの池で変わり果てた姿となって見つかったこと。
その後のお役人の検(あらた)めでは、遺書などもないことから、不慮の事故死、つまり、誤って池に落ち溺死したのだと申し渡されたこと―。
「嘘だろう、あの子が伊勢次が死んだなんて、何かの悪い冗談に決まってる」
おきわは呟くと、お彩をひたと見据えてきた。その艶やかさを失った頬には幾筋もの涙の跡がある。お彩はハッと胸を衝かれた。

