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Memory of Night 番外編
第2章 Episode of YOI
「明」
たった一言だった。しかもその呼びかけは自分に向けられたものではないのだ。
にもかかわらず、耳の縁をなぞるような声色に愛美の肩がびくんと跳ね上がる。
愛美には、声の持ち主が誰なのか顔を見なくてもすぐに認識することができた。およそ四年間、ずっと意識して聞き分けていた声だ。
隣に座る明が顔を上げ、軽く首をかしげて目の前の人物を見つめた。
「宵? あんたまだいたんだ。何ー?」
宵という名前に、今度は心臓が早鐘を打ち始める。
さらに深くうつむいて、愛美は沈黙したまましばらく二人のやり取りを聞いていた。
「もう帰る。その前に現文課題の提出日教えて?」
「またー? なんでちゃんと先生の話聞かないのよあんたは。今週三回目……」
「説教はいいから。俺、この後すぐバイトなんだよ。だから頼む」
宵は明の紺色のセーターを掴み、袖の辺りを軽く引っ張った。
「ちょっとっ……服伸びる。今愛美と大切な話してるのに……」
自分の名前を持ち出されて、愛美は慌てた。左横と正面から視線を感じ、思わず顔を上げてしまう。