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Memory of Night 番外編
第2章 Episode of YOI
右手には黒い、光沢のある財布が握られている。
(やっぱり……さっきのは聞き間違いじゃなかったんだ)
三万という単語を、愛美は頭の中で反芻した。
女生徒の足音が遠ざかり、ほっとする間もなく、すぐに別の足音が聞こえる。
今度はもっとゆっくりとした歩調だった。
おそらく男子生徒のものだろう。
愛美はさらに体を縮めて廊下を見つめた。
ドアのガラスに頭が移り、ドア越しに、ゆっくりとその人影が姿を現した。
(――うそ……)
愛美は目をみはった。
夕陽に照らされてはっきりと浮かび上がったその顔に、明らかに見覚えがあったのだ。
学生鞄を肩に下げ、手に握りしめられているのは万札。
状況から、さっきの女生徒から渡されたものに間違いなかった。
漆黒の、長めの髪がわずかに揺れている。
廊下を進んでいくその人物を信じられない気持ちで眺めている愛美の耳に、ふいに大きな音が響いた。
何か、堅いものが床に落ちる音だ。
それが自分の腕から落ちた教科書や筆箱によるものだと気付いた時、頭が真っ白になった。
廊下を進む足音が、ぴたりと止んだ。