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その恋を残して
第5章 それは、おとぎ話だ
「蒼空は、本当に怜未が自分の中で生きていると信じている。だから、彼女に俺の考えは話していない。蒼空の精神を動揺させることになりかねないからね。だから、僕が現在、その話をしているのは交代人格である怜未の方だけ……」
「じゃあ、怜未は……そのを話しを聞いて……?」
誠二さんはコクリと頷いた。
「怜未は蒼空の将来を案じている。はっきりと口に出した訳ではないが、このままでいいとは思っていないだろう。だから、怜未は僕の処に通い治療を受けようとしている。つまり、自分を交代人格であることを認めつつある――と、僕は感じているがね」
「仮にそうだとして……では、これからどうなると言うんですか?」
「解離性同一性障害――その治療の答えの一つに『統合』がある。つまり、端的に言えば互いの感情を一つにするということ。しかし、それを急ぐことは正解ではない。『統合』により、交代人格は自分が消えるのではと、不安を覚えることになるからだ。しかし、怜未の場合は、もしかしたら自分が消えることを、むしろ望んでいるのかもしれない……」
「そ……んな」
怜未の知られざる想いに触れた気がして、俺は言葉を失う思いだった。
誠二さんはテーブルに置かれたコーヒーを口にする。そして、暫く間を置いてから、こう言った。
「僕の義妹(いもうと)に近づくな」
「は――?」
あまりの唐突さに俺がキョトンとするのを、誠二さんは、愉快そうに眺める。
「失礼。一度、言ってみたかったのさ。まあ、割と本音だがね」