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その恋を残して
第5章 それは、おとぎ話だ

    ※    ※


「――松名! オイ、聞いているのか?」

 俺は木崎先生のその声に、ハッとする。

 昨夜のことを考えている内に、もう授業は始まっていたようだ。

「え、なんでしょう?」

 惚けた返事をした俺を見て、クラスの連中がドッと笑った。

「なんでしょうじゃないだろ。次、読めって言ってんの」

「あ、はい……えっと、どこから?」

「チッ――!」

 木崎先生は、舌打ちをしつつ顔をしかめる。

 申し訳ない。先生の顔のしわが増えないことを俺は願った。

 蒼空が俺を心配そうに見たので、大丈夫だと顔で合図を送る。そう、彼女に不安を与えてはいけない。俺は気を取り直すと、教科書を手に、それを読み始めた。

 誠二さんの話を、俺は全て肯定した訳ではない。俺はやはり、蒼空の信じるていることを信じたいと思う。だって、真実がどうあろうと、少なくとも蒼空は嘘など言っていないのだから……。

 だが、それでも現実を突きつけられたようなショックを、俺は否定することができないでいる。それは、誠二さんが大人で、俺が子供であるからなのであろうか。

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