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その恋を残して
第5章 それは、おとぎ話だ

 蒼空は、今日の帰りも俺と共に歩いてくれている。学校からコンビニまでの僅かな時間を大事に思ってくれている。

 蒼空は無自覚のままに、怜未の人格を自分の中に作り――そして、それを怜未の魂が、あたかも自分の中に宿ったと信じている? そんな疑問と共に見つめた蒼空の姿は、とても脆く弱々しく映ってしまう。

 いじらしく感じられ、俺は目頭が熱くなった。

「どうかしましたか?」

 蒼空が俺の方を向く。俺は慌てて涙を拭い、誤魔化すように笑う。

「なんでもないんだ。寝不足のせいか、少し眠くて……」

「ダメですよ。夜更かしは」

 蒼空は怒った顔を見せる。

 夜更かし――その言葉を聞いて、俺にある考えが浮かぶ。

「ねえ、蒼空……もしもの話なんだけど」

「はい――?」

「蒼空が夜、寝なかったら、怜未と入れ替わらないのかな……なんて?」

「私、徹夜なんてできません。夜はすぐに眠くなってしまうので」

「そうかもしれないけど。でも、考えたことないの?」

「ありません。だって――」

 蒼空は、真剣な顔をする。

「それで、もし本当に怜未が出て来られなくなったら……。そう考えると、私、堪えられませんから……」

 それを聞き、俺はくだらない質問をしたことを後悔した。それと同時に思ったことがある。蒼空は怜未と共にあることを望んでいる。

 というよりも、怜未がいないと生きてさえゆけないのではあるまいか? 怜未という存在が『本物の意識』であろうとも、『作られた人格』であろうとも、怜未が蒼空の精神の安定を保っているのだとしたら?

 もしそうなら、怜未が消えることなんて、蒼空自身の為にもあってはならないことになる。

 「怜未に関わるな」――と、誠二さんは俺にそう言った。だが、怜未が自分を消そうとしているのならば、それを俺は止める必要があると感じていた。

 それは、きっと蒼空の為にも怜未の為にも……。

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