この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
その恋を残して
第5章 それは、おとぎ話だ
蒼空は、今日の帰りも俺と共に歩いてくれている。学校からコンビニまでの僅かな時間を大事に思ってくれている。
蒼空は無自覚のままに、怜未の人格を自分の中に作り――そして、それを怜未の魂が、あたかも自分の中に宿ったと信じている? そんな疑問と共に見つめた蒼空の姿は、とても脆く弱々しく映ってしまう。
いじらしく感じられ、俺は目頭が熱くなった。
「どうかしましたか?」
蒼空が俺の方を向く。俺は慌てて涙を拭い、誤魔化すように笑う。
「なんでもないんだ。寝不足のせいか、少し眠くて……」
「ダメですよ。夜更かしは」
蒼空は怒った顔を見せる。
夜更かし――その言葉を聞いて、俺にある考えが浮かぶ。
「ねえ、蒼空……もしもの話なんだけど」
「はい――?」
「蒼空が夜、寝なかったら、怜未と入れ替わらないのかな……なんて?」
「私、徹夜なんてできません。夜はすぐに眠くなってしまうので」
「そうかもしれないけど。でも、考えたことないの?」
「ありません。だって――」
蒼空は、真剣な顔をする。
「それで、もし本当に怜未が出て来られなくなったら……。そう考えると、私、堪えられませんから……」
それを聞き、俺はくだらない質問をしたことを後悔した。それと同時に思ったことがある。蒼空は怜未と共にあることを望んでいる。
というよりも、怜未がいないと生きてさえゆけないのではあるまいか? 怜未という存在が『本物の意識』であろうとも、『作られた人格』であろうとも、怜未が蒼空の精神の安定を保っているのだとしたら?
もしそうなら、怜未が消えることなんて、蒼空自身の為にもあってはならないことになる。
「怜未に関わるな」――と、誠二さんは俺にそう言った。だが、怜未が自分を消そうとしているのならば、それを俺は止める必要があると感じていた。
それは、きっと蒼空の為にも怜未の為にも……。