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その恋を残して
第6章 怜未は、ここにいるよ
その日の放課後――俺は一人、教室で蒼空が来るのを待っていた。
蒼空は木崎先生に呼ばれて職員室に行っていた。編入してから日の浅い蒼空に対して、学校生活を支障なく送れているのか。そんな趣旨の話らしい。
木崎先生もああ見えて、しっかり教師をやっているらしい。そんなこと、本人に向かっては言えないのだが……。
『帆月蒼空』がウチのクラスに来て二週間が過ぎようとしている。というか、まだたったの二週間か。そんな感覚の方が強い。
蒼空と怜未――そのそれぞれとの時間なら、その半分なのだ。それでも、彼女たちが俺にもたらした変化は大きい。それまでの俺が知らなかった想いを、いくつも教えてもらった気がする。
タッタッタッ――廊下を誰かが駆けてくる音がして、入口の方を見た。
「お待たせです……松名くん」
蒼空は、息を切らせながら、そう言った。
「慌ててどうしたんだ?」
「早く……松名くんに会いたくて」
ハアハアと息をしながら、そんな風に言うのは反則である。
「ろ、廊下を走っちゃ……ダメだろ」
そんなことを言いつつ、外の景色に目を向ける。顔がにやけてしまわないように、必死に堪えていた。
「はい。気を付けます」
蒼空は窓際にいる俺に並びかけた。俺と蒼空は、暫く並んでいた。夕陽が傾く中、グラウンドでは運動部の連中が練習している姿があった。
「……」
「……」
そんな風景を見ながら黙る俺たち。でも、会話が無いことに焦ったりしない。ゆっくりと流れる時間の中、二人で並んでいるのが心地いいのだった――。
しかし――永遠にそうしてはいられない。
「帰ろっか……」
俺は鞄のある自分の席に向かった。その時だ。
「そ、蒼空……?」
俺の背から、蒼空は俺に抱きついていた。
「どう……した?」
俺は困惑しながらも、顔を見ようと振り向こうとするが――
ギュッ!
蒼空の両腕が、それを許さないとばかりに、強く身体を締めつけた。
「もっと……一緒にいたいな」
背中に顔を埋めながら、蒼空は言う。そして、続けて――
「――ずっと」
そう呟いた時――自分でも驚いたように、俺からパッと放れていた。
「……ごめんなさい。ワガママでした」
その時――俯いた蒼空の瞳は、前髪に隠れて見ることはできない。