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その恋を残して
第1章 好きにならないで!
「お待ちになりましたか、お嬢さま」
やはり「お嬢さま」なんだ。そんなことに関心しつつも、車を降りてきた沢渡さんの登場に、俺は少なからず緊張する。
「では、失礼します」
軽い会釈をし、帆月は車に乗った。
「じゃあ、また明日」
それは、何の気なしに言った別れの挨拶。だが、何故だか帆月は困ったような顔。
「……また」
俺の耳が、帆月の消え入りそうな声を聴くと同時。沢渡さんがドアを閉める。そして、運転席に回り込む途中で、沢渡さんは俺の前に立ち止まった。
戸惑いを浮かべた俺を、沢渡さんがジッと見据える。それは、まるで俺を推し量るような、懐疑に満ちた視線に思えた。
「失礼――お嬢様の御学友ですか?」
「えっと……クラスメイトの松名です」
「左様で。私はお嬢様のお世話をさせていただいております、沢渡と申します」
「あ……どうも」
丁寧にお辞儀をされ、恐縮しつつ俺もペコリと頭を下げた。
年齢は七十くらいであろうか? しかし、背筋をきっちりと伸ばし、上品な身支度の外見は何処か、威厳を感じさせるものだった。
「くれぐれも慎重に」
「――?」
帆月を乗せた車が、走り去り去って行く。それを見送りながら、しばらく俺は呆然と立ち尽くす。
沢渡さんの言葉の意味は、俺にはまだ解らなかった。