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その恋を残して
第1章 好きにならないで!
俺たちは校門を出て、並んで立っている。迎えの車が来るまで、俺は帆月と一緒に待つことにしていた。
正直に言えば、俺の抱いた疑問は何も解決していない。それどころか、謎は更に深まっている。
昨日、俺に言ったことを帆月は覚えていない。とりあえずは、そんな仮定をしてみよう。だが、それを彼女に問い正すべきではない。俺は、漠然とそう思うのだった。
それは、彼女が抱えているであろう、何らかの事情を慮ってのことであったが、理由はそれだけではなくなっている。先程、俺に見せてくれた笑顔を、崩すようなことをしたくない。俺にそんな気持ちが芽生え始めていた。
「帆月さんて、お嬢さま?」
俺は、おどけたようにそう訊いた。疑問の矛先を変えたのである。
黒塗りの高級車での送迎。その点については、はっきり言って畏敬の念を禁じ得ない。少なくとも、こんな田舎の高校においては特別なことだった。
「父が経営者の家系で……。でも、お嬢さまなんて、そんな……」
「お父さんが社長ってこと? なんか、凄いね」
「いえ……私はあまり関係なくて……」
「こっちに来たのは、親の仕事の都合とか?」
「……」
あまり訊かれたくないのか。黙って俯く帆月。
「無理に答える必要はないから。色々、聞いてゴメン」
「いいえ、ありがとうございます」
帆月は、言葉を選ぶようにしてこう話してくれた。
「両親は一緒じゃなくて、こちらに来たのは私と……世話をしていただいている沢渡さんだけで」
「じゃあ、今は二人で暮らしているんだ」
「ええ……二人、で……」
「そっか」
何か複雑な事情がありそうだ。俺は、それ以上のことを訊くのをやめた。
「……」
黙ってしまった彼女の横顔を見て、俺は柄でもない笑顔を作っていた。
「早く学校に慣れるといいけど」
「はい」
帆月は再び微笑んだ時、俺たちの前に車が到着する。