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その恋を残して
第2章 好きでは、ないから……
帆月蒼空と出逢ってより三日目。水曜日になった。この日も退屈な授業は開始されている。
俺の教室での席は、中央の列の一番後ろ。その前の席に悪友の田口がいる。そして、その帆月の席は、右隣の列の三つ前に位置していた。
だから、と言うつもりはないが、授業に集中してないと、つい可憐な後姿に視線が取られてしまう。今も後ろ髪を見つつ――あれ、今日は少し毛先が外側に跳ねているな。などと観察していた。
イカンな――と俺は思う。最後列の俺の視線を(教師以外に)誰が気にする訳でもあるまいが、些か見過ぎ。そして、くどいようだが好きだからではない。謎多き帆月に対して、俺の中に芽生えた好奇心が、そうさせているに過ぎないのだ。
とにかく、あまり気にするのはやめよう。
彼女が色々と問題をかかえているにせよ、一介のクラスメイトである俺が出しゃばる筋合いではない。早く新しい環境に慣れることを願いはするが、その手助けも同性の女子たちの方が何かと肝要である。
その点については、この数日で数人の女子たちと打ち解けつつあり、昼休みなどは弁当を楽しげに食べながら談笑している姿も見受けられている。はっきり言って、俺の老婆心に過ぎなようだった。
今日、俺はまだ帆月と話していなかった。本来俺は気安く女子と話せるタイプの人間ではない。というか、殆ど田口以外とは話さないような男である。そんな俺が連日、帆月に声をかけられて、少しばかり舞い上がっていたのかもしれない。
帆月の華奢な肩、僅かに覗く横顔をもう一度だけ見てから。俺は当面、授業に集中することにした。