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その恋を残して
第2章 好きでは、ないから……

 数十分後。静まった美術室で、俺が鉛筆を走らせる音だけが聴こえている。

「……」

 少し冷静になれたのは、帆月がモデルに徹してくれているからだ。俺の要望に従い、真正面ではなく僅か横に角度を振った状態で座ると、そのままピタリと静止してくれている。そうなれば、話すことも目を合わせることもなく、俺は絵を描くことに集中することができていたのだった。

 完成に近づいた時、初めて絵と実物を真剣に見比べる。まあまあの出来ではあったが、やはり実物の方が、そこはかとなく美しかった。

 それにしても帆月は、どうして俺に構ってくれるのか? 今だって、俺の為にこうしてモデルをしてくれている。それは、単なる優しさによるものなのであるのか。絵を大体、描き終えたことで気が緩んだ為だろう。

 それまで、心に閉ざしていた帆月への疑問が顔を出してきていた。

「描けましたか?」

 そんな俺を見越したのだろう。帆月は瞳だけ動かすと、そう訊いた。

「うん……」

「観せてもらってもいいですか?」

「……はい」

 少し躊躇したが、俺はそれを彼女に渡した。

「綺麗……」

「そうだね」

「あ、もちろんモデルが、と言う意味じゃないですよ。この絵を観た感想を言っているので
あって」

 と、そんな風に慌てて訂正しながら顔を紅くする。

「実物の方が、ずっと……」

 つい、そんなことを口走り、俺の顔も程無く同じ色になっていた。俺たちは一瞬、チラリと目を合わせ、そしてすぐに顔を背ける。

 恥ずかしいセリフを言ったことで、少し箍が外れたのかもしれない。

「帆月さん……はさ、何で俺なんかに構ってくれるの?」

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