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その恋を残して
第2章 好きでは、ないから……
放課後。俺は誰も居ない美術室で一人、絵を描いていた。今日はバイトも無いのだし、ここで絵の課題を終わらせようと思ったのだ。
教室で描いている者もいたが、俺は人前では描きたくなかった。その理由は、これが帆月蒼空を描いたものだから。
ガラッ――突如、開いたドアの音に、まさかと思い視線を送る。
「松名くん。捜しました」
現れた帆月に、俺はビビっていた。
「帆月さん……どうしたの?」
「松名くん、それ課題のデッサンですか?」
「そうだけど……」
「では、モデルが必要ですね」
と、帆月は無邪気な笑顔を浮かべながら、俺の前に座った。
「いや、大丈夫だよ。付き合わせちゃ悪いし……」
「そんなこと言わないでください。だって、私――」
「何?」
「完成した絵を観たいんです。さっきは、観せてもらえませんでしたから」
帆月は少しだけ口を尖らせる。
そんな顔もするんだ――俺は新鮮な想いで帆月を見た。
「あ、今の顔を描いちゃダメですよ」
「……」
俺は照れを隠すように、難しい顔を作りつつ押し黙る。帆月蒼空という存在が俺の心の中にドンドン入ってくる感覚があった。どうしようもなく、俺は顔が上気してつくのを止められずにいた。
「でも……迎えが来るんじゃない? あの、沢渡さんて人……」
「平気です。いつも帰る時に連絡してから、来てもらっているんですよ」
手立てを失い、俺は諦めて絵を描き始めることにする。こうなれば、一刻も早く描きあげねばならない。何故って? さもないと俺が――俺の心臓が耐えられない。
さっきから、鼓動のテンポが上がりっぱなしだった。