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その恋を残して
第2章 好きでは、ないから……
自分の部屋に入り、鞄からスケッチブックを取り出す。その間に挟まっている帆月の絵を出して、それを机の上に置いた。
俺は鉛筆を手にして、右目から伝う涙を描き加えた。それは、俺があの言葉を言った時の涙だった。
『俺は帆月さんのこと……好きでは、ないから』
何故、あの時、それを言ったのか自分でもわからない。只、好意的に接してくれた帆月に、俺が戸惑っていたことは確かだった。
帆月に、どう応えていいのか俺はわからなくて。帆月に関する謎は何も解かれてなくて。
そんな焦りから、朝に言おうとしていた逆告白が口をついて出てしまった。そんなことかもしれない……。
でも、涙を描き足した帆月の絵は、とても悲しげ。それを、そのままにしておくのは嫌だと思う。俺は消しゴムを持ち、描き加えた涙を丁寧に消す。
「絵の涙は簡単に消せるのに……」
そう、ポツンと呟いていた。