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その恋を残して
第4章 二人で一人、なのです

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「おかえり」

 バイトを終え、帰った俺を母さんが迎えた。

「ああ……ただいま」

 俺は蒼空との会話を引きずったままの顔で、頼りのない返事をしていただろう。母さんは、そんな俺の顔をジッと見ていたようだったが――

「今日は早かったから、夕飯の支度できてるわよ。早く着替えてきなさい」

 と、普段と変わらぬ態度をして見せた。

 母親と二人で囲む食卓――。

「……」

 俺は目の前に置かれたカレーを、機械的な動きで口に運んでいる。正直、味もわかってはいない。

「なんかさ。告白して、フラれたって顔だね」

 ブッ――と、俺はたまらず口にしていたものを吹き出した。この母親が、息子のデリケートな部分に、土足で侵入して来たせいである。

「あーあ、汚いなあ」

 咳き込んでいる俺に構うこともせず、母さんはテーブルの上を布巾で拭く。

「コホコホ――いきなり、何だよ!」

「ああ、ゴメンゴメン。まさか、図星だとは思わなかったから」

 母さんは悪びれた風もなく、俺をあしらう。

「全然、図星じゃないし!」

「じゃあ、いいじゃない。そんなに剥きにならなくても」

「そ、そうだけど……急に変なこと言うからさ」

 俺は興奮を抑えつつ、そんな言い訳をする。確かに母さんの言ったことは、全く的外れではない。否、形だけを見ればむしろその通りと言えるかもしれない。付き合ってくださいと告げたその結果は、そうなってはいないのだから……。

 でも、やはり違う。根本が全く異なっている。今、俺が抱えている悩みは、もっと遥かに根が深いのであった。

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