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その恋を残して
第4章 二人で一人、なのです
「まあでも、色々あるでしょ。大いに悩めばいいのよ」
テーブルを拭き終え、母さんはイスに座る。
簡単に言われた気がして、俺は些かムッした。
「母さんにはわからないよ。今、俺が悩んでいることは。きっと、誰にもわからない」
「見くびってくれるわね。それじゃあ、試しに話してみなさいよ」
「それは、できないけど……」
「なによ。つまらない子ね」
話した処で信じてもらえる訳がなかった。そもそも、それ以前に、秘密にすることを怜未と約束している。
俺たちは、暫く黙って食事を続ける。
はっきり言って、俺は何をどう考えればいいのか頭を整理することさえできてはいない。そんな想いから、不意にこんなことを母さんに訊いてみる。
「あのさ、全然、関係のない話として聞いてほしいんだけど――」
「なに?」
「二人の人を同時に同じくらい好きになることってある?」
「それは、恋愛的な意味よね?」
「……まあ、そうかな」
「そんなこと――」
「イヤ、そんなの最低だよね。わかっているんだけど――」
「誰にだってあるわよ。あるに決まっているじゃない」
「えっ――そう……なの?」
母さんがあまりに、あっけらかんと答えたことを、俺は意外に感じた。
「もちろん、二股がありだなんて言ってないわよ」
「わ……わかってるよ」
「まあ、大人になると色んな打算が働いたりして、そんな風に悩むことは、あまりないのかもね。でも、アンタの歳だったら、あり得る話だわ」
「別に、俺がそうだとは言っていないけど……」
「肝心なのは、その二人を比べたりしないことね。それは傲慢よ。何様だって思われても仕方ないわ」
母さんは、俺の言葉に耳を傾けることなく、何やらアドバイス的なことを言い始めた。完全に、俺がそのことで悩んでいると思っているらしい。
「――でもね」
と、急には真面目な顔で、俺を見据える。
「二人のどんなところが違っているのか。それは、良く考えてみるといいんじゃない?」