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その恋を残して
第5章 それは、おとぎ話だ
「気をつけろっ! 何処、見てんだよ!」
その車の運転手から、罵声が飛んだ。
俺が怜未に覆い被さるようにして、二人はアスファルトの上に折り重なっていた。
「イタタ……怜未、大丈夫か?」
俺は上体を起こし、仰向けに倒れたままの怜未の顔を覗く。
「…………」
怖かったのだろう。怜未は呆然と宙を見上げたまま黙っていた。
「怜未! 何処か怪我をしたのか?」
その問いに、怜未はゆっくりと首を横に振る。その視線は、まだ定まっていない。
すると――
「あり……がと」
ようやく、発したその言葉を聞き、俺はホッと胸を撫で下ろす。
「とにかく、無事でよかったよ」
だけど、何か様子が変だ。
「ありがとう。ありがとう――」
無感情にそう繰り返す怜未。その様子は尋常なものではないように思えていた。
「れ、怜未……?」
心配する俺を、怜未はようやく見る。すると、その瞳から堰を切ったように涙が流れた。
そして、その後――
「蒼空を……守ってくれて……ありがと」
怜未は涙を流し続けながら、そんな風に言っていたのである。