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秘密の恋人
第11章 虚勢
いつもは菜摘が起きるのを待って、シャワーに行く。

菜摘が目覚めた時、一緒に居てやりたいと思うから。
寝顔を見られるのは、恋人の特権だと思うから。
でも。
今日は…
菜摘の寝顔を見ているのが辛かった。

だから、彼女が起きるのを待たず、シャワーを浴びに行った。
髪と身体を洗いながら、雨のように降り注ぐ湯が、泡とともに渦を巻いて排水溝に吸い込まれていく様子を眺める。

このもやもやした気持ちも、菜摘への未練も、一緒に洗い流してしまえればどんなに楽だろう。
そんなことを考えながら、浴びるシャワーはいつもよりも長かった。

身体を拭き、バスローブを着て、鏡を見ながら、髭を剃る。
髪の黒さも濃い薄いも、歳とは関係なく、髪質によるものだ。
だがやはり、白髪混じりや薄い髪は老けて見える。
父も祖父も髪が薄かったが、私は母親似らしく、禿げてはいない。
鏡を合わせて目の届かない後頭部を見ても、つむじのあたりもしっかりとしていて、地肌も目立つわけではない。
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