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共犯者の微笑
第1章 読み切り短編
もも肉。
挟まれたしし唐の角っこだけが薄っすら焦げて、それがまた食指をさそう。
「相変わらず、すごいボリューム」
と、まだまだ全然満足していない彼が言う。この5倍ぐらい食べられるクセに。そんな普通のヒトじみたこと言っちゃって。
「でもどれももの凄く美味しい」
って言うと、彼ったら、心の底から屈託なく笑う。四十男ができる笑顔じゃない、って思う。その屈託のなさ。その邪気のなさ。まったく子どもだ。きっと一緒に暮らしてる奥様は、そこに惚れたんだろうなって思う。
しし唐が、すっごく香りがよくって、そのことを伝えると、彼は自分の串からしし唐を外し、お箸であたしの口にそれを入れようとする。
あなたもたべてよ。それで美味しいねって、言い合おうよ、って言うのだけど、彼はその場で割烹着のヒトにもう一本もも肉をオーダーし、
「あとで食うから、たべて、コレ」
って、箸を勧める。
まったく、仕方のないひと。あたしは口に、彼の箸ごとしし唐をいれる。肉汁と、青くさい香り、そしてポリポリしたしし唐独特の食感。こってりした焼き鳥の中の、貴重なオアシスみたいに思える。
そして、つくね。
大ぶりの団子が串に3本。「絶対美味いから」って言われて食べてみると、確かに。ミンチにした鳥と、軟骨かな?、ポリポリの食感。口の中でホロホロくずれるジューシーな肉汁と、そのポリポリの調和がなんともいえない。塩だけの調味料がとっても見事に肉の甘みを引き出してる。なんたるつくね。店の名物なんだって。