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さくらホテル2012号室
第18章 思いもよらず

そしていつもののれんをくぐる。
「毎度」と、大将は何事もなかったかのようにひとりのわたしを迎えてくれた。夜の部の営業が始まったばかりの大将のお鮨屋さん。
「今日はひとりなんです」
先生のことを問われるのが嫌で、わたしは先にそう告げる。
大将は小さくうなずいて、わたしの背中に追いやった事情を訊かずにいてくれた。
「最初からお好みでもいいですか?」
「へい。今日はアジとヒラメがお勧めです」
他にお客さんのいない店内。
静かな佇まいと、わずかな緊張感。
寡黙な中年の板前さんがツケ台とガリをひとつまみ、わたしの前に置いてくれる。
自然と背筋が伸びる。

