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さくらホテル2012号室
第18章 思いもよらず

青魚の香りと薬味の爽やか、シャリの甘みが渾然一体となって、口の中で溶ける。
空気を含んで簡単にほどけてゆくシャリが、まるで淡雪のように儚(はかな)い。
「あぁ。美味しい」
褒め言葉でなく、心からの感嘆が口から出て行った。
「ありがとうごぜいやす」
いつもの江戸訛りをきかせて大将は答えた。
海老。
しめ鯖。
青柳。
平目。
ウニ。
サヨリ。
リズムに乗るように滑らかに、わたしはオーダーを進めた。
色も鮮やかで美しい仕事を施された、一口サイズの料理の芸術。細やかに心を尽くして、食べ手の気持ちをときめかせる。
先生、と心で呼ぶ。
わたしはあなたなしでも、大将のお鮨をちゃんと食べることができましたよ。ひとりできちんと。緊張せずに。

