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さくらホテル2012号室
第5章 それが本音ですね?
「皆さんが喜んでくれることを、したいのです」と、先生は静かに言った。
「せっかく時間を作って来てくれているのです。参加者の方の気持ちが動く本でやりたいのです」
確かにそうだ。その先生の気持ちはよくわかる。でも。
「でも、現役の作家の作品というのはいかにも生々しくありませんか?」
「ならば、児童文学はそうではないと言えますか? 古典は? 例えば源氏物語は恋愛と官能が渾然一体となった名作です。子どもたち相手の学校の授業なら、情操教育も意図した作品の選定を考えるでしょう。でも、相手は大人ですよ? 生半可な価値基準でテキストを選ぶと、結局は参加者の満足度は下がるのではありませんか? 私もプロの俳優として、参加された方に少しでも楽しんで帰っていただきたいのです」
先生は珍しく長い言葉でわたしを説得しようとした。