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さくらホテル2012号室
第9章 はじめての2012号室

「すごい」
月並みな言葉を宙に残したまま、わたしは何も言えなくなってしまった。
先生はわたしの隣に黙って立っている。
先生も、余計なことは何も、言わない。
ふたりして、清潔に整えられた部屋の中、肩を並べて立ち尽くして。言葉を交わす必要を感じなかった。
不思議だ。
何の気詰まりもなく。何の焦りもない。ただ静かに先生の隣に立って、あの河津桜の大樹を見ているだけで、気持ちが通じている。教室と喫茶店でしか言葉を交わしたことのない相手なのに、何もかも安心して委ねられる気がする。何年も前からの知り合いのように。前世では、激情に見舞われた恋人同士であったかのように。

