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さくらホテル2012号室
第12章 ほどける

そうなんだ、と思う。
「シマアジというのはね、採ったばかりの時は身が固めでね。歯応えの強い刺身なんですよ。でもこうして少し日を置くと、身がほどよく馴染んで角が取れて、酢飯とよく絡む。旨味も前に出てきますね」
先生は、鮨の話をする時は饒舌だ。芝居の話をする時だって、こんなに多くの言葉を話すことはない。
そんなにお鮨が好きな先生に指南されながらいただく上等の握りは、わたしを途方もなく幸福にする。
橙(だいだい)と白の縞模様の美しい、海老はプリプリした歯ごたえと香り。
ねっとりとした甘鯛。
白さネギを抱いたアジは青魚特有の爽やかな旨み。
煮ハマグリのしつこくない甘さ。
〆サバで一度舌をリセット。
舌の上でとろりと溶けるウニと海苔の調和。

