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紅蓮の月~ゆめや~
第9章 第三話 【流星】 プロローグ
 「申し訳ないけれど、古着を買いたくて来たのではない」と言おうとして、美都は言葉を呑み込んだ。片隅にひろがる着物が唐突に眼に入ったのだ。朱塗りの衣桁にまるで鳥が翼をひろげたような恰好で掛かっているのは袿(うちぎ)(平安時代の貴婦人の服。上衣の下に重ねて着たもの)だった。
「あれは袿ですか?」
 思わず訊ねずにはおれないほど、その着物は美都を魅惑した。ややくすんだ紅の色を基調とした華やかな色目の袿である。全体的に明るい色づかいは何とはなしに春の訪れをイメージさせた。
 美都の視線の先を見、女主人は満足そうに頷いた。
「これは、うちの店に置いているものの中でもかなり古い年代の着物になります。紅梅襲(こうばいがさね)の袿です。紅梅襲は襲(かさね)の色目の一種です」
「襲の色目?」
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