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紅蓮の月~ゆめや~
第2章 紅蓮の月 一
「ひとたび生を受け、滅せぬ者のあるべきか」
 信長は帰蝶の心中など知らぬげに謳いながら舞う。
 ひとさし舞い終えると、信長は帰蝶を見た。
「帰蝶、人の生とは真に短きものだ。どのような人生を歩もうとも、ひとたびこの世に生まれ出でた者は必ず死ぬ。この信長、いつ死ぬるかは判らぬが、死など少しも怖れてはおらぬ。死を怖れていては、何を成し遂げることもできぬからな」
「―」
 帰蝶は最早、言葉がなかった。瞬きもせずに信長という男を見つめていた。まだ十代の若さだというのに、この男の双眸には既に齢(よわい)五十年を生きた老人のような諦観―悟りにも似た感情がかいま見えた。
―この信長という男、一体何者なのだろう。
 知れば知るほど、底の知れない人物だ。
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