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紅蓮の月~ゆめや~
第2章 紅蓮の月 一
 運命の歯車は既に回り始めている。今更、後戻りはできない。父の命じるままにこの織田家に輿入れしてきたそのときから、帰蝶の運命は決まっているのだ。
 殺すか。
 殺されるか。
 応えはその中のただ一つ。
 逡巡している暇はない。
 それでも。
 許されるならば、帰蝶は信長という男を知りたいと願わずにはおれない。この日、帰蝶は暗殺者としてはけして犯してはならない過ちをしてしまった。
 それは恋だった。父道三は帰蝶が信長に惚れるという事態は全く想定外だったのだろうか。帰蝶もまた乱世に武門の女子として生まれ育った習いとして、幼時から護身術や簡単な剣法は身につけていた。乗馬も巧みだ。それは単に己れの身を守るためのみではなく、咄嗟のときには相手を傷つけ息の根を止めるための殺戮の手段としてでもあった。
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