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紅蓮の月~ゆめや~
第1章 プロローグ
 口調は優しげだが、何か逆らい難いものがある。言われるままに店の中に入った実幸は再び息を呑んだ。狭い店の中には所狭しと着物が並んでいた。衣桁に掛けられたもの、四方の棚に畳んでしまわれているもの、おびただしい数の着物に囲まれ、実幸は眼を見開いて店内を眺めた。
「何かお気に入りのものがございましたか」
 問われ、実幸はハッと我に返った。女性のすぐ後ろ―作りつけの棚にある着物が気になっていたのだ。
「あの白っぽい着物―」
 呟くと、女性はすぐにそれを取り出してきた。丁寧に畳んであった着物をパッと広げる。どうやら、その着物は小袖らしかった。裾の方は鮮やかな赤色で、襟元から腰の辺りまでは白と染め分けてある。裾の方に金銀で扇面が描かれており、華やかな豪華さがあった。
 普段着物など着たことのない実幸にも相当な値打ちものだと判る逸品である。
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