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おんな小早川秀秋
第2章 小早川隆景という男
頭の上には烏帽子を乗せて、直垂に身を包む。村が全てだったあきが安芸の地で、ましてや女の身で武士の正装を身につけるなど、まったく人生とは何が起きるか分からない。あきは頼勝と若武者に挟まれ、拳を固く握って座っていた。
すると緊張を見抜いた若武者――稲葉正成が、あきに耳打ちする。
「ご安心を。隆景様は聡明なお方。今回の件も、必ずご理解くださります」
正成は頼勝に比べると、冷静な物の言い方をする。だが山口と呼ばれた武士――山口宗永に比べれば、年が若い分威圧感は少なかった。
その山口は、此度の事情を説明するため、人払いをして隆景と密談していた。表には隠しても、義父となる隆景にまで真実を隠し通すのは不可能である。事情を伝えない訳にはいかなかった。
仮に、小早川隆景という男が乱世を望む男であれば、秀俊を死なせた罪を三人に問いただし、豊臣へ戦を仕掛ける可能性もある。そうなれば三人はもちろん、身代わりとしてのこのこ登城したあきも切り捨てられてしまう。隆景が太平を望む男か否かに、あきの生死は委ねられていた。