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おんな小早川秀秋
第2章 小早川隆景という男
山口の帰りを待つ間、あきはふと握り拳を緩め、手のひらを見つめる。本物の秀俊が最後にそこへ記したのは「ふじ」という二文字だった。それが、何を意味するのかはあきには分からない。だが、既に血を洗い流した今も、そこに秀俊の血が流れているかのように、彼の遺言は熱くあきの手のひらに残っていた。
しばらくすると、山口が戻り皆の前に座る。深い皺が刻まれた顔に僅かな安堵が浮かんでいる。隆景という男が聡明であるという話は、どうやら真実のようであった。
「明日より、秀俊様を迎える宴が始まる事となった。娘、明日からはお前の身分では何度転生しようが味わえない贅沢が待っているぞ。精々楽しむと良い」
この言葉に、あきより早く反応し身を乗り出したのは頼勝だった。
「宴か! なあ山口殿、酒は? 酒は沢山用意してあるのか!?」
「お主が興奮してどうする! 我らは真実を悟られぬ為、宴に参加する大勢の人間に気を配らねばならんのだぞ」
「ちぃとくらいなら罰は当たりませんて。なぁ、娘っこ」
「え? あ……そうです、か?」
「そういうもんだ。お前さんも、腹減らしておけよ」