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おんな小早川秀秋
第2章 小早川隆景という男
「宴は、明日も続きます。今日はゆっくり休んでくださいね」
つまり、これ以上は立ち入るなという事なのだろう。全てを教えてもらえない事に、あきは気持ちが落ち込む。だがその気持ちの変化こそが、隆景の望む関係の進展だという事にはまだ気付いていなかった。
あきは隆景の部屋を出ると、自室にはすぐ戻らず城の外へ出る。すれ違う武士は、何の疑問も持たずにあきを通す。もうあきはみすぼらしい少女ではなく、元服し妻も持つ武士、秀俊なのだ。
しかし、だからこそ城からあまり遠くへ離れる事は出来ない。門を越えようとすれば、門番に慌てて止められるだろう。今までのように、ふらりと夜の森へ赴く事は不可能だった。
(これから、どうなるんだろう)
あきは夜空を見上げ、秀俊が最期を託した手のひらを天にかざす。その手はついこの間までと変わらない、女の頼りなく細い手である。いくら鍛えたところで、それが秀俊の手になる事など、本来は有り得ないのだ。
今のあきに見えるのは、隆景という導きの月だけ。初めに出会った山口でも、秀俊にとって最も頼りになる頼勝や正成でもなく、あきの心が向くのは大きな月だった。