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おんな小早川秀秋
第2章 小早川隆景という男
「――あの日、私が見たのは……」
固まっていた口は自然と緩み、あきはぽつぽつと秀俊の最後を語る。複数の男に追われていた事、鼻を削がれ絶命した事。
「それと……いまわの際に、私の手のひらに、血で遺言……? を残しました。ひらがなで、『ふじ』と書かれていました」
文字の読み書きは出来ない、とはいえ、漢字ならともかく、ひらがなくらいならばあきでも読める。その二文字は、秀俊が最期に残そうとした言葉に間違いなかった。
「ふじ……」
隆景は一瞬目を丸くすると、眉間に皺を寄せ考え込む。
「何か、心当たりでも……?」
「いえ、すいませんあきさん、辛い記憶を思い出してくださって、ありがとうございました。これで一つ、はっきりしました」
隆景はあきから手を離し、丁寧にお辞儀する。温もりが離れてしまった事に若干の寂しさを覚えながらも、何がはっきりしたのかが気になった。
「秀俊は、最期まで武士であったのです。私の元に生きて現れれば、良き子に育ったでしょう」
「どうして、そう思うのですか?」
だが、隆景は首を振りあきの問いには答えない。微笑み、明るい声でごまかした。