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おんな小早川秀秋
第3章 秀俊修行
「それが隆景殿の文……ですか?」
あきの頼みに、真っ先に反応したのは正成だった。文を書くと言われた次の日の朝、さっそく届けられた現物。続く宴の準備で忙しい三人を呼び止める罪悪感はあるが、あきはどうしても黙ってはいられなかったのだ。
だが、正成が驚いたのは、文そのものだった。やけに分厚いそれを受け取り、広げてみれば、広間の端から端まで届きそうなほど長い。すると山口が、感心して文を覗き込んだ。
「ほう、これが噂の『毛利の長手紙』か。実物を見るのは初めてだな」
「毛利の長手紙?」
「どうも、ここの一族は文が長いらしくてな。太閤様がそう名付けておったのだ」
頼勝も物珍しそうに覗くと、感心し頷く。
「流石隆景殿だな。祐筆に書かせなくても、字が綺麗だ」
頼勝から出た聞き慣れない言葉に、あきは思わずおうむ返ししてしまう。
「ゆうひつ?」
「ああ、武家のお偉いさんは、普通祐筆っていう、字が特別綺麗なお手紙書き専門の部下を抱えてるのさ。普段の書状は、大抵祐筆が書くんだ。自筆の文なんてのは、よほど親しい仲の相手か、気楽な身内くらいにしかよこさない。貴重品だぞ、この長手紙」