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おんな小早川秀秋
第4章 埋められない差
山口が血相を変えて駆けていたその時、既に遺体は隆景の手の者により葬られていた。
「隆景殿、一体何があったのですか!?」
人払いをした部屋に呼ばれた山口は、隆景の表情に心臓が凍る。一見無であるようで、腹の底に湛えた溶岩のような怒り。隣のあきを宥め頭を撫でる手だけが、爆発を抑える「たが」であった。
「遅くに申し訳ありません、山口殿。実は先程、秀俊――いえ、あきさんに狼藉を働いた曲者を成敗しました」
「狼藉!?」
「彼女に、無体を働こうとしたのです。ですが……あれは見慣れぬ顔でした。私の配下でも、あなた方の配下でもありません。秀俊を殺した手の者が、忍び込んだのだと思います」
「そんな、まさか! ここは、隆景殿はもちろん、こちら側でも厳重に警備しているではありませんか。それをくぐり抜けるなど、信じられない」
「……とにかく、事件が起きたのは事実です。幸い、彼女に怪我はありませんでした。しかし……」
あきは先程から自らの身を抱き震えるばかりで、山口の存在すら目に入っていない。目に見える怪我はなくとも、深く傷ついたのは間違いなかった。