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おんな小早川秀秋
第5章 石田三成という男
 






 あきの筆が進まないのは、字が不得手であるからではない。何を書こうかと紙と向き合っても、薄っぺらな言葉しか出て来なかったためだ。

(……どうしよう)

 隆景へ手紙の返事を早く出したいと思う一方、胸に抱く想いは複雑で、あきはそれを文字には出来ない。しばらく机に向かい悩んでいたが、結局紙はまっさらなままだった。

(直接会って話が出来たら、早いのに)

 隆景も追って伏見に来るとは話していたが、小早川家の主である以上簡単にあちこちへ出歩けはしない。あきが伏見へ到着してしばらくしても、隆景がこちらへ向かったという報せはなかった。

 少し気持ちを整理しようと筆を片付けたその時、部屋の外から声がかかる。しかしそれは、聞き覚えのない声であった。

「金吾、いるな」

 短い言葉で決めつけ、許可もなく勝手に部屋の襖を開く。顔を出したのは、眉間に皺を寄せ、気難しそうな顔をした男だった。

「あ、あの……」

 誰かと面通りする時には、必ず誰かが先に話を通していた。おそらくこの神経質そうな男は、話を通さず入ってきたのだろう。それを許される人物となれば、間違いなく豊臣の重臣である。うろたえている場合ではなかった。
 
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