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おんな小早川秀秋
第1章 乱世の匂い
「だから、どうしても『羽柴秀俊』を安芸に送らなくてはならない、と」
「そういう事だ。幸い、太閤様は実子である拾様に夢中で、無事に着いたと知ればこちらには目もくれないだろう。しばらくやり過ごした後に、秀俊様が病で逝去されたと情報を流せばいい。そうすれば、お前さんも晴れて自由の身だ」
さらに山口が、助け船を出すように口を挟む。
「もちろん、お主が秀俊様になりすましている間の政治は、我らが請け負う。お主は礼儀作法さえ身に付けてくれれば、後は何もしなくて良い」
「一刻も早く安芸へ着かねば、暴漢達が秀俊様の鼻を証に死を広めてしまう。影武者を用意する暇はないんだ。顔の似ているお前さんでなければ出来ないこの任、どうか受けてはくれないか」
山口に頼勝、そしてまだ名を聞いていない若武者も、まだ年若いあきへ頭を下げる。大の大人に頭を下げられ、しかもそのような事情だと聞いてしまえば、村へ返せとはとても言えなかった。
「――分かりました、私が、羽柴秀俊として、安芸に向かいます」
あきが承諾すれば、山口は安堵の溜め息を吐き、頼勝に至っては涙ぐみながら喜ぶ。こうして備前国のあきという女は、羽柴秀俊と名乗り歩む事となる。
そして向かった安芸の国で、瞼の裏に焼き付いて離れないもう一人の男――義父となる男、隆景と出会う事となったのだった。