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あいの向こう側
第10章 眺める街
男と手を繋いでもないし、腕を組んでた訳じゃない。



オフィスに戻ってPCを叩きながら、
俺は思った。


あんな笑い顔を長く見てないなぁと気付いた。





『わたし洗っときますからー』
七緒が器を重ねる。


『悪いねー、ありがと』
『あざーっす』
皆部屋を出て各デスクに戻っていく。



俺はハッと我に還る。

『……イカン、
ぼーっとしたなぁ』


『やっぱ糖質足りてないんすよ〜。激務の上に店屋ものだけだと味気なさすぎ。
はい、チロル。
弦くんがくれたの』


七緒が俺の口にチョコを放り込む。


『……美味いね』



『でしょ?
甘いもの、適度に食べたら癒されますよぉ』
七緒は袖を捲って店屋ものの器を流しで洗い始めた。



七緒のスラリとした背中を見る。

『藍田さぁ、
彼氏の前でめちゃめちゃ笑う?』


『ん?
なんすか、いきなり(笑)
笑いますよぉ、そりゃ。
おんなじ位泣いたり怒ったりしますけど』


『違う男の前で同じようになる?』


『………違う男………
うーん、ならないなぁ』


『そっか』
俺は立ち上がってデスクに戻った。



―――24H営業ということもあり、
ひっきりなしに夜中も発注が来る。俺たちは発注書に倣いデザインし、
プリント枚数を打ち込んでポップ・割引券まで作成する。
ミスしたまんま気付かずに入稿する事もある。
印刷前に誰かが気付けばやり直し。
印刷して各地の店舗に出たあとならば回収。


その繰り返し。
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