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あいの向こう側
第12章 みなとみち
『――あ!武の船や』


美和子の声ではっとした。

沖を見る。


『武【たけし】って…………………
あの、ヒョロヒョロの蒼白い武?』



『うん。
武、高校出たあとお父さんの跡継いで漁師しとるんよ。
うちの子ーと同い年の子供居るよ。
あ、船戻って来るみたい。ちょっと行ってみよ』


美和子が佐和子の右手を引っ張る。



佐和子は柔らかく小さかった美和子の手が、
ゴツゴツと硬くなっていて驚いた。



舟場に着く。

『さざなみ』とペイントされた小さな船が目前で波に浮いている。


日に焼けて背の高いがっちりした男性が顔を出した。

『武!
んふふふ、あんたびっくりするでぇ。
見てみぃ?』


美和子がわたしを前に押し出す。


『………え、た、武?
嘘………黒い…………』



頭タオルをして雨具のような作業着の男は、
ヒョロヒョロして蒼白かった武とは別人のようだ。



武は目を丸くし、
『うわ、佐和子やないか!』と豪快に笑った。


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