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あいの向こう側
第12章 みなとみち
『あら?
ニックは一緒じゃないの?』
私が訊くと、
マリは決まって『たまには1人がいいもの』と上機嫌に笑う。




ニックが1人で来ることは無かった。


――――あの日、
秋の終わりの北風が強い日だけだった。
いつも穏やかにニコニコと笑い、
彫刻のこととなると少年のようにひたむきでがむしゃらになるニック。
彼の般若のように歪んだ顔を、
わたしは脳裏から消すことはないだろう。






マリがわたしの仮宿に通い始めて1ヶ月。


休みで眠っていると、
マリは不器用ながらにトーストやスパゲッティ、
数回爆発させたが魚のグラタンなどを作ってくれた。

眠っていても『キャアー』『イヤアー』
というマリの叫びで目が覚めていたけれど。
フライパンが真っ黒焦げになっていたり、
火が上がっていたり………


わたしはまた怒りながらもマリを可愛らしく感じ、
手のかかる妹のように思った。
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