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あいの向こう側
第13章 夏に飛び込んで
『うわ!』


男子トイレに入るなり、
再びクジラくんと遭遇した。


『あ。
おつかれさまです』
クジラくんは悠々としている。


平日だからか?
他に人がいない。


見合ってしまった。


『あの-。
昨日遅くまで失礼しました。
今さらですけど』
クジラくんは丁寧に話す。


俺は『ああ、構わないですよ。
いつもああだし……』
と用を足しつつ返す。




クジラくんは手を洗いながら、
『……………………明莉、
デザイン学校の同期なんだけど。
嫌いなんですか?』
と俺をジッと見る。





『………………え……………』

俺は不意の質問に、
上げかけたジッパーの手が止まった。

『…………いや、そんなことは』





『…………ですよねぇ。
ごめんなさい。
何だか、一緒に住んでるのに男女感がなかったから。仲良さげにしてるというか………明莉の片想いみたいな。
僕がそう思っただけですね』




俺は手を洗う。
クジラくんと並んで。


クジラ、
さすがだと思った。
さすがデザイナー。
鋭い。








『……………よく分からなくて』
俺は、
誰にも言ったことがない本心かスルリと出た。
自分で驚いた。



『好かれたら嬉しいんだけど。
嫌いじゃないし。
好きだけど、何か分からない。腑に落ちないっつーか』



クジラくんはキョトンとして俺の肩に手を伸ばした。
『糸くず、
ついてる』






『あ。
ありがとー………』



『それ、好きじゃないんですよ。
居ても居なくてもどっちでもいいレベル』


背中を向けて歩くクジラ。


もしかして、
明莉を好きなのだろうか。



『いえ、明莉は単なる友達ですよ』
クルリと振り返った。


『ヒッ……………
何で分かんの………』
心臓がバクバクする。
突然心を読まれて。
見透かされて。



クジラの瞳は大きい。

俺を見据える。



なんだよ?




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