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あいの向こう側
第13章 夏に飛び込んで
それとも、
あまりにストイックすぎるクジラくんに対するもどかしさか。



『あ、うん。
デザインを仕事にするの、
本当は嫌だったし……
学校は何も考えずに入っただけで』


クジラくんの声は、
女の子のように細く掠れている。


『この前の…………
あれ、何だったの?ショッピングモールのトイレで』
俺はトイレでの出来事を訊ねた。

苛ついて、
モヤモヤして………………

本心は誰にも見せずに来たのに。



『あれは…………
そのまんまです』クジラくんは頭を掻いた。
大人しいくせに、
悠々としているクジラ。



俺は、
クジラくんをジッと見た。

彼もこちらを見る。



何だろう。

なぜなんだろう…………


この頃退屈していた自分に、
頭の中で繰り返していた疑問符たち。



クジラくんの黒くて丸い瞳を見る。
吸いよせられるように。
疑問符たちが、
散らばって消えていく。



クジラくんの髪の毛が、肩が、
俺の耳たぶを噛んだ熱さが、退屈を消してく気がした。




びゅうっと風が吹き抜ける。
辺りで昼休み中のOLやサラリーマンの嬌声がした。
俺はクジラのカラダに手を伸ばす。
肩を掴んだら、
ジンワリと手のひらが熱くなっていく………







夏がはじまる。






















〔終わり〕





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