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あいの向こう側
第15章 イトヲヒク
『_____この感じ』




上野美晴【うえのみはる】は、
食卓で思わず声を挙げた。



午後8時。


残業を済ませて直ぐ帰宅した。

20代ならば、
外食をして友達と飲み買い物をして発散させただろう虚無感のほぐし方。


33歳になればそれすら虚しくなってしまう。




10日前、「もう、終わりにしようか」
自分から言い出した別れだ。

目の前の男は上目遣いで私を見て、
「何故なんだよ」と恨みがましい声を出した。何度目になるだろう。


〔____何故もどうも、
そもそも貴方は妻帯者じゃないの。〕


喉まで出かけた台詞を飲み込んだ。


そんな事を責めてもいいことはない。



男は渋っていたが、
私が頑として冷たい態度を取ると肩を落としてすごすごと去って行った。保守的な男だから、喫茶店で別れ話をしている状況にも慌てたのだろうと思う。もし知り合いが見ていたら困るだろう。
(「結婚するのだ」と嘘を言ったほうがよかったかもしれないなぁ)
縮まった背中を眺めてボンヤリ思った私も非情である。



男とは割り切りの約束で2年半続いた。



私の勤める個人病院に出入りするMRが彼だった。

彼は39歳。奥さんにやっと2人目が出来たと耳にした。

長く2人目が出来なかったらしい。



不思議なのだけど、
私は彼の家庭に本当に興味がなかった。




私と会う時間だけ薬指の指輪を外す彼に、
内心(バカじゃなかろーか)と鼻白むくらいには距離感があった。


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