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あいの向こう側
第15章 イトヲヒク
『ちょっと、あなた!』
青年の肩を掴む。筋肉の感触。

『は?』
クルリと振り向き怪訝な顔をする。
近くで見ると白い顔に無精ヒゲが生えていた。

『あの~~~、
お参りしないのかなと思って。
お線香ですし。』

私は(しまった………
決してお線香が惜しかったんじゃないのよ)と言い訳しながら訊ねた。


そして気づいていた。
青年は、恐ろしく私の好みの端正な顔立ちだと。



『ああ、すみません………
分けて頂いたのに』
青年は頭を搔く。
『良い香りだったから自分の部屋で焚こうかと思いまして。
アロマ代わりっつうか』



私は目を丸くした。

そして、
お腹を抱えて笑ってしまったのである。



























___________『ふぅーん…………おかざき医院かぁ』

『あ、
バカにしてません?
大学病院の勤務医は違うわよねぇ』


____1週間後。
私は彼の部屋に居た。

『してないよ。
個人開業したほうがずっと楽だ。
それに僕は非常勤だし』


笑い転げる私に、
「お線香の礼を忘れてた」と名刺を渡された。
「時間が取れるかどうか分からないけれど連絡貰えますか」と言う。

何だか変わった人だし思い切り失礼な人ではあるが、
無視するのも惜しい気がして連絡を入れた。




すると「休日は眠るだけなので部屋に来てほしい」と言う。

軟派なのは明白なのに、
私はつい乗ってしまった。




まぁ退屈だったのだ。




彼の部屋はマンションだったが、
物が散乱していて(本当に勤務医なんだなぁ)と憐れんでしまった。
私には何年かかっても読み切れないだろう医学書ばかり山積みだった。

夜勤明けで寝ていたらしく、
Tシャツ・イージーパンツの恰好だ。


私はシフォンブラウスにカプリ丈のパンツ。










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