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あいの向こう側
第15章 イトヲヒク
迎え入れてくれたは良いが、
コーヒーを出されるなり彼はソファーに横になった。
「眠い、悪いんですが横にならせて……」と。

私は地べたに座りコーヒーを飲みながら彼を眺めている。


話しながら。


『なぜ白衣のままお墓参りしてたの?』



『単に時間がなかったから。
墓は、ウチのじゃなくて母方の祖父の墓です。母親も入ってまして』


『白梅香は?』


『そこに置いてある』
彼が指をさす。
見るとダイニングテーブル___書類・雑誌だらけだ____の隅に置いてあった。

『点けて貰えますか』



『…………それよりも眠ったほうがいいのでは』



『じゃあ匂いを嗅ぎながら寝る……』


私はライターで白梅香のお線香に火を点けた。
横になった彼の顔の近くに持って行った。


(……………ヒゲが沢山生えてる)

見てしまう。白く小さな顔に筋の通った鼻。
髪は長めで無造作だ。

伏せ気味だった彼の目が開き、
私の手首を掴む。


ビクッとしたものの視線が絡むと下腹が熱くなった。


唇を合わせる。


ジンと痺れた。

白梅香の線香を床にそっと置く。
か細い煙はすぐ消えた。






はあっと唇を離す。

また視線が絡む。


彼の目に欲望が宿っているのは確か。

名前と勤務先以外何も知らない。




私は、
この男のセックスに飽きたら次はどうするのだろうかと考えながら唇を当て舌を差し込む。
息が荒くなる。
男は私のブラウスをゆっくりと脱がせる。





医学書の端にさりげなくあった、
女物のブレスレットと指輪にとうに気づいている。
そもそも医者が独り身のはずがない。子供もいるだろうなと思った。医者という仕事は、変わり者じゃないと勤まらない。

私が欲しいのはそれじゃない。
この男から差し出される性技だけだ。




小ぶりの胸に男が噛みつくと、
目の前に一瞬あの納豆が浮かんだ。
糸を引き、ストンと落ちる納豆。


それは直ぐ消え、
私は獣の声をあげる。

























〔終〕
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