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あいの向こう側
第3章 漂う
花井は朱里の上で優しく揺れていた。
花井とどうこうなる気など、毛頭ない。

朱里には、
花井の顔が分からない。


浮かぶのは、智弘の苦悩する顔。
私を詰る、
辛そうな嗚咽の声。


いきものが流れていった場所に、
男の根が入っている。


私はやっぱり智弘が云うように、
理解できない女なのだろう。


『あああっ………!』

快感が背中を突き抜け、

思わず声が漏れた。




朱里は男の背中にしがみつく。


なぜ、
どうして?
なぜ?………
どうして?あの時…

智弘が朱里に投げた疑問符たちは今も朱里の胸に宿り、
薄れることもない。
あの時から朱里自身が毎日まいにち24時間ずっと、
離れない疑問符なのだ。

いきものが流れ出た場所から、
別の露が零れ落ちる。
そこに別の男の根が入っている。



薄情だろうか。
冷酷だろうか。



だけど朱里は、
今あの夢と現の間に居る気がした。

ぼんやりと気持ちのいいあの時間を漂っていたくて、喘ぎ続けた。











〔終〕
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