この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
あいの向こう側
第1章 凪に沈む
呆気にとられて、
梅乃は暫くぼんやりしていた。
『梅ちゃーん!
サカエさんがレタス取りに来いって言っとるよ〜』
後方から、
近所の奥さんの声がして梅乃はハッと振り返った。
『ああ!
分かった〜今行くわ〜』
歩き出す。
(最近の若者は、
あっけらかんとしとるんかねぇ)
礼儀知らずにも思えるが………
屈託のなさは幼稚に見えた。
サカエさんというのは男性で、
漁師を引退して畑を耕している近所の人だ。
夫はこのサカエさんに実子のように厳しく、時に優しく指導を受け漁を覚えた。
嫁いで間もないとき、
梅乃に懇意にしてくれた。夫を亡くしてからは、
毎日こうやって野菜をくれる。
古い母屋の開き戸をがらがらと開くと、
『梅か?』
と奥座敷からサカエさんの声がした。
漁師たちはみな、
身体一つで生き抜いている。
年老いても健康体の人間が多く、
耳も良いのだ。
『レタス取りに来たんや〜』
杖など要らないだろうに、サカエさんは片手に杖を握って顔を出した。
『酒饅頭があるんやわ。
食べていけ』
梅乃は長靴を脱ぎ、
サカエの家に上がる。
サカエは二世帯住宅にしており敷地内に息子一家が所帯を構えていた。
息子は、
『漁師なんぞ死んだら意味が無いやんか』と町役場で公務員をしている。
梅乃は暫くぼんやりしていた。
『梅ちゃーん!
サカエさんがレタス取りに来いって言っとるよ〜』
後方から、
近所の奥さんの声がして梅乃はハッと振り返った。
『ああ!
分かった〜今行くわ〜』
歩き出す。
(最近の若者は、
あっけらかんとしとるんかねぇ)
礼儀知らずにも思えるが………
屈託のなさは幼稚に見えた。
サカエさんというのは男性で、
漁師を引退して畑を耕している近所の人だ。
夫はこのサカエさんに実子のように厳しく、時に優しく指導を受け漁を覚えた。
嫁いで間もないとき、
梅乃に懇意にしてくれた。夫を亡くしてからは、
毎日こうやって野菜をくれる。
古い母屋の開き戸をがらがらと開くと、
『梅か?』
と奥座敷からサカエさんの声がした。
漁師たちはみな、
身体一つで生き抜いている。
年老いても健康体の人間が多く、
耳も良いのだ。
『レタス取りに来たんや〜』
杖など要らないだろうに、サカエさんは片手に杖を握って顔を出した。
『酒饅頭があるんやわ。
食べていけ』
梅乃は長靴を脱ぎ、
サカエの家に上がる。
サカエは二世帯住宅にしており敷地内に息子一家が所帯を構えていた。
息子は、
『漁師なんぞ死んだら意味が無いやんか』と町役場で公務員をしている。