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あいの向こう側
第7章 堕落する君と
実和子が大袈裟に肩をすくめる。

『あのさぁ……
人間さー、死にたいくらい辛くなることもあるんだよ?
生きてるとさー』


『俺は無いね』


『……鮫島くんはそうかもしれないけど!

あれじゃない?人生勉強みたいなやつ。「他人を知りましょう」みたいな指導がある時期ってあるじゃん?頭を打たれるっていうか』



『何それ?』
俺は鮭にかぶり付いた。


『例えばさぁ、
仕事で躓く時ってあるでしょ?
そういう時も自分で知恵絞るよねぇ。人を見て学んだり、本読んだり。「どーやったらクリアできるのか?」って。
それの人生バージョン』
実和子がペットボトル紅茶をくいっと飲む。


『…………ふうん』
俺が興味無さげに呟くと、実和子が『鮫島くん、
人は1人じゃ絶対生きられないんだからね?
ちっとは他人を許容しなさいよっ!』
と俺の頬をグイッとつねった。



『痛っ………』



痛みで頭が痺れた。




(他人を許容ねぇ……)













午後になり、
会議を一つ終えて皆がデスクに戻る。
『あれ?』
ヤシロが居ない。
午前中は居たのに………


『鮫島くん!
ちょっと来なさいー』
課長が手をヒラヒラさせて呼んでいる。
『何でしょうか?』
課長デスクへ向かう。
『あのさぁ、
君ヤシロくんに何かした?』

『………へ』


『退職願い出されちゃってさ。
新人教育すんのって、時間も金も力もかかんのよ……
もうちょい優しくしてくんないかな?』


『はあ……
優しく…ですか』


『うん。
ちーっとだけで良いんだ。君が出来るのは認めてんだからさ、皆。
ヤシロくんも必死なんだよ。ちゃんと見てやってよ』

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