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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第14章
両手の指を胸の前でわきわきと蠢かせながら、廊下を突き進むヴィヴィ。
防音室の扉の小さなガラス部分から覗く小さな影に気づき、歩く速度を緩めた。
もしやと思いガラス部分から中を覗き込むと、匠海がチェロを弾いていた。
もしかしたらクリスも一緒かと狭い視界で探ってみるが、どうやら兄1人のようだった。
「………………」
聖なるクリスマスの夜――ついに自分の兄への恋心を自覚してしまったヴィヴィは、なんとか普通の兄妹として接せられるようにと努力していた。
どれだけ自分の気持ちを誤魔化そうが、匠海を見ないふりしようが、気づくともう心は、視線は、常に兄を追っているのだから――。
それならいっそ、一秒でも長く、匠海の近くで過ごしたいと思った。
恋心を認めてしまうと、後は春先の雪崩の様に、ヴィヴィの気持ちは理性や常識といった壁でも止める事は出来なかった。
自分でも解らないし、理解不能だ。
『何故、自分はこんなにも、血の繋がった実の兄に引き寄せられるのか――?』
(――優しいから?)
ヴィヴィは頭に浮かんだ答えに小さく首を振る。
そんなのクリスだって、いつもからかってくるクラスメイトだって皆、心底優しい。
(頼りになるから? 博識で尊敬できるから? いつも小言を言いながらも最後には甘やかしてくれるから? 気心が知れているから? それとも、一緒にいて安心するから――?)
何故か考え得るどの理由もピンとこない。
なのに、吸い寄せられる。
ほら、こうしている間も、手は小刻みに震えながらも、匠海との間を隔てる邪魔な壁を取り払おうと、防音室特有の大きなノブを押し開こうとしている。
音もなく開かれる分厚い扉。
けれどそれによる空気の流れを感じ取ったのか、匠海がこちらをふと振り向いた。
両者の視線がかち合った途端、ヴィヴィはまるで熱いものから逃れるように、ぱっと扉の陰に身を潜める。
「ヴィヴィ……?」
中から匠海の不思議そうな声が呼びかけてくる。
「………………」
チャコールグレーのワンピの奥の心臓が、徐々に鼓動を早める。
(もう一度……)
ヴィヴィは胸に握りしめた拳を押し付け、ギュッと目を瞑る。