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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第14章
もう一度……その声でヴィヴィって呼んで?
その灰色の瞳で、私だけを見て?
節くれだっているけれど男性にしては細く長いその指先で、私に触れて――?
心は口よりも貪欲に欲求を垂れ流す。
そうだろう――だって思うだけならば、相手に自分の醜い心が見抜かれる事もなく、それによって傷つけられることもない。
「ヴィヴィだろう? 入っておいで」
匠海の男らしい低くて官能的な声に、ヴィヴィの中のまだ未成熟な女の部分が揺さぶられる。
実兄相手にこんなはしたない事を思っている自分が嫌なのに、見つめられたい。
相反する気持ちに胸が引き裂かれそうに苦しい。
けれど……匠海の姿を一瞬でも長く見ていたい――。
恐る恐る扉の陰から顔だけを出すと、兄とまた目が合う。
「―――っ」
息を飲んでまた扉の陰に隠れてしまったヴィヴィだったが、匠海がくくくっと苦笑する声を聞きとめ、やはり気になってまたそろりと顔を出してしまった。
視線の先にはチェロを片腕で抱いた匠海が瞳を細め、おいでおいでと手招きしている。
(ど、どうしよう……)
心臓は早鐘を打ち、思考は纏まらずにごちゃごちゃなのに、何故か細長い足はそれ自身が意思を持ったように匠海のもとへと歩を進める。
自分の全身が匠海の視界に入っているのを感じ取ったヴィヴィは、ふるりと大きく躰を震わせた。
愛しい人に見つめられ、心の内から湧き上がる高揚感と、紛れもない己の内に燃え滾る情欲――。
「………………」
(ああ、解った――)
ヴィヴィは確信する。
ヴィヴィは、ただ『魅入られた』だけ――
お兄ちゃんの男の色香にただ、あてられただけ
お兄ちゃんの持つ――もしかしたら自分にしか判らない――天性の魔性に取り憑かれ、狂わされただけ――
本当にただそれだけで、たぶんそれ以上でもそれ以下でもない。
そしてその引き金になったのは、やはり、匠海の性行為を目撃してしまったから――。
「お、お兄ちゃん……」
ヴィヴィはおずおずと匠海の前に立つと、座ったままの匠海が見上げてくる視線を何とかそらさず受け止める。
「ふっ……、野良猫ごっこ?」
「え……?」
匠海の突然の発言に、ヴィヴィは小さく疑問の声を上げる。